↑これ、かつての上司に言われたセリフです。もう15年くらい昔のことですが。
当時は青山のデザイン事務所に勤めていてヘルスケア商品の広告やパッケージの制作を担当していました。まだデザイナーになって2、3年目の頃です。
ある日、海外製の商品を日本で販売するためにパッケージの言語を英語から日本語にしてデザインし直してほしいとクライアント(輸入代理店)から依頼を受けました。
私は海外版パッケージのデータ(イラストレーターデータ)と日本語の文言データを受け取って制作を開始したのですが、翻訳された日本語の文字量が元のパッケージよりも多かったため、英語と日本語を単純に置き換えただけではデザインのバランスが悪くなってしまいます。そこで、商品のロゴマークやイメージイラストのサイズを変えたり配置場所を変えたりして“日本版パッケージ”としてオリジナリティを出す方向でクライアントに話をしようと考えました。
デザイン案をいくつか作り、まずは上司にプレゼンテーションをします。デザインの経緯や意図は前述のとおり説明しました。すると上司の顔色が変わり…
「おまえの意見は聞いてない!」
えっ、どういうことですか…?
「クライアントは海外版パッケージのイメージのままで進めたいんだ。余計なことをするな!」
凄いショックでした。一所懸命考えたのに何で?って。でも冷静になると自分の至らなさに恥ずかしくなりました。最初にクライアントから依頼があったときは打ち合わせに上司も同席していて一緒に話を聞いていたのです。上司は正確にクライアントの意向を理解していた。でも私は理解できていなかったため制作途中で思考がブレた。上司が怒りたくなるのも当然です。言葉はキツいけど。
さらに、私はオリジナルのデザインを提案することで自己アピールをしようとしていました。周りの人達にデキるデザイナーとして認めてもらいたかったんですね。でもそれはクライアントに対してとても失礼なことです。デザイナーの都合を押し付けられるわけですから。このときの教訓で“相手の想いを形にすることが私の仕事だ”と念頭に置くようになりました。
…とはいえ「デザインは全部お任せで!」と言われることもあるので、そういう場合はありがたく好きなように作らせていただきます。
■このときの失敗の要因
・クライアントの意向を理解できていない、コミュニケーション不足
・文字量の差を言い訳にして全体の構成を変えるという自分にとって楽な方法に逃げた
・デザインが自己満足
■このときにやらなければいけなかったこと
・クライアントの話を徹底的に聞き、私はこう理解しましたが合っていますか、と最後に確認する
・文章の言い回しを変えて文字量を減らすことができないか上司やクライアントに相談する
・どうしても文字量を変えられないなら文字サイズを小さくするか、文字の縦横比を可読性が保たれる範囲で変えるか、ロゴやイラストなどの位置を変えずに全体の要素を少しずつ小さくしていき元のイメージを損なわないように微調整をする
・あくまでクライアント主体でデザインを考える